研究

研究データのバックアップ方法|3-2-1の考え方

研究データを実際に守るために、3-2-1の構成例、HDD・SSD・NAS・クラウドの違い、Gitとの役割分担、頻度、復元テスト、機密データの注意点を整理します。

先に結論

研究データは、作業中のPCだけに置かず、3つのコピー、2種類の媒体、1つの別場所を目標に分けます。ただし、大学や共同研究の規程で保存先・クラウド・外部媒体が制限されることがあります。個人情報、未公開研究、NDA、共同研究データが含まれる場合は、保存場所を自分だけで決めず、指導教員・研究室管理者・所属機関の規程を先に確認してください。

この記事の3-2-1は構成を考える枠組みです。コピーを作っただけでは復元できるとは限らないため、少量のファイルで復元テストまで行います。

3-2-1の意味

  • 3: 作業中の原本を含め、重要データを3つのコピーにする
  • 2: HDD、SSD、大学ストレージなど、異なる種類の保存先を2つ以上に分ける
  • 1: 盗難、火災、故障、ランサムウェアなどに備え、1つを別の場所に置く

CISAの資料でも、重要なファイルを3コピー、2種類の媒体、1つの別場所に置く考え方が説明されています。媒体を分けても、同じ机の上にすべて置けば「別場所」の条件は満たしません。

実際の構成例

例A: PC + 外付けSSD + 大学提供ストレージ

ノートPCを原本、外付けSSDを定期バックアップ、大学が管理するストレージを別場所のコピーとして使う考え方です。大学のストレージがバックアップ機能を持つとは限らないため、同期だけでなく世代管理・復元方法を確認します。

例B: PC + 外付けHDD + 研究室の管理ストレージ

容量の大きい画像・測定データを扱う場合の考え方です。研究室ストレージの管理者、停電・故障時の復元、アクセス権、卒業・異動後の引き継ぎを確認します。

例C: PC + 研究室NAS + 別拠点バックアップ

NASを研究室内の共有保管場所とし、別拠点へバックアップする構成です。NASは複数ディスク構成でも、同じ場所の火災・盗難からは守れません。別拠点バックアップの費用、回線、暗号化、管理責任を決めます。

例D: 大学が認めたクラウド + 外部媒体

大学が契約・管理するクラウドを原本またはコピーの一つにし、外部媒体へ世代バックアップします。個人契約のクラウドを研究データ用に使ってよいとは限らないため、大学のデータ分類と利用規程を優先します。

どの例でも、保存先の名前だけで3-2-1を満たすわけではありません。原本、コピー、媒体、場所、復元担当者を表にして、空欄がないか確認します。

HDD・SSD・NAS・クラウドの比較

保存先長所短所・故障リスクコスト・携帯性研究データとの相性
外付けHDD大容量を確保しやすい衝撃・落下・可動部の故障に注意。接続時に常に使えるとは限らない大容量あたりを抑えやすい傾向。SSDより持ち運びに注意大容量の測定データ、定期的な世代保存
外付けSSD軽く、読み書きや持ち運びをしやすい容量・書き込み耐久・紛失時の情報漏えいを確認HDDより高くなる場合がある。携帯しやすい分、紛失対策が必要移動が多い人、作業コピー、復元用媒体
NAS複数人で共有しやすく、アクセス管理や世代機能を持つ製品がある機器、ネットワーク、管理者が必要。同じ場所の災害には弱い初期費用と管理コストが必要。基本は固定設置研究室の共同データ、管理者が運用できる場合
クラウド別場所へ置きやすく、複数端末からアクセスできる場合がある同期削除、アカウント停止、規程違反、漏えい、容量上限に注意継続料金・容量・回線に依存。携帯性は高いがオフライン利用を確認所属機関が承認したデータ、共同作業、別場所コピー

「RAIDだからバックアップ不要」「クラウドにあるから安全」「同期しているから復元できる」とは限りません。保存先の故障、誤削除、アカウント問題、暗号化キー紛失を別々に考えます。

同期・バックアップ・アーカイブの違い

  • 同期: 複数の場所を同じ状態に近づける。原本の削除や破損が同期される設定では、誤操作も伝わる
  • バックアップ: 過去の状態を含めて、失われたデータを戻すためのコピー
  • アーカイブ: 研究終了後や公開後など、変更しない前提で長期保存するデータ

常時同期は作業を便利にしますが、それだけでは世代バックアップにならない場合があります。重要な分析前、コード変更前、データ変換前には、日付や版を分けたコピーを残します。

Gitとの違い

Gitはファイルの変更履歴を記録するバージョン管理で、コード・設定・テキストの「何をいつ変えたか」を戻すのに向きます。Gitのクローンには履歴を含むコピーがあるため復旧に役立つ場合もありますが、Git自体をバックアップの代わりに扱わないでください。

Git = 変更履歴と共同開発を管理する仕組み
バックアップ = データを失ったときに戻すための保護策

GitHubなどの公開・外部サービスへ、研究データ、個人情報、未公開原稿、NDA対象ファイルを置いてよいとは限りません。リポジトリを非公開にしても、所属機関や共同研究者の承認が必要な場合があります。コードだけをGitで管理し、データ本体は承認された保存先に置く構成も検討します。

バックアップ頻度の決め方

「毎日が正解」と固定せず、データの更新頻度と失った場合の再作成時間で決めます。

状況候補となる頻度追加する確認
実験・解析中に何度も更新常時同期 + 世代バックアップ同期削除を防ぐ世代機能、重要操作前の手動コピー
毎日コード・文書を更新毎日終了時にコピー完了、直近の版を開けるか
週に数回だけ作業週1回 + 作業直後コピー忘れを防ぐ予定、前回日時の記録
重要イベント前後実験・変換・提出の前後元データを上書きせず、読み取り専用や日付付き版を残す

更新頻度が高いデータほど、バックアップ頻度を上げます。復元に数日かかるデータ、再取得できないデータ、共同研究に影響するデータは、優先度を高くします。

復元テストの具体的な手順

「バックアップしただけ」と「復元できることを確認済み」は別です。

  1. 重要データの中から、規程上問題のない少量のテスト用フォルダを選ぶ
  2. バックアップ日時、保存先、ファイル数、合計容量を記録する
  3. 別の場所へ復元し、元データを上書きしない
  4. ファイルが開くか、画像・表・コードの中身が壊れていないか確認する
  5. 研究ソフトで再読込、コードならテストや再現手順を確認する
  6. 失敗した場合は、権限、パスワード、暗号化キー、ファイル名、保存先の状態を記録する

月1回、重要イベント前、保存先や担当者が変わったときなど、運用に合わせてテストします。復元用パスワードや暗号化キーを同じPCだけに置くと、PC故障時に復元できないため、承認された方法で管理場所を分けます。

機密・個人情報の確認

研究データには、次のような情報が含まれる可能性があります。

  • 被験者・顧客・学生などの個人情報
  • 未公開の実験結果、論文原稿、特許に関係する情報
  • 企業とのNDA対象データ
  • 共同研究者から預かったデータ
  • 学内規程で学外保存が制限されるデータ

保存先を決める前に、データ分類、暗号化の要否、アクセスできる人、国外サーバーの扱い、保持期間、削除方法、卒業後の引き継ぎを確認します。個人の無料クラウド、USBメモリ、GitHubリポジトリへ勝手に置かないでください。

最小チェックリスト

  • 原本、コピー1、コピー2の保存先を書き出した
  • 2種類以上の媒体または管理単位に分かれている
  • 1つは別場所にある
  • 保存先の利用が所属機関・共同研究の規程に適合する
  • 同期と世代バックアップを区別した
  • データ変換・解析・提出前の版を残した
  • コピー完了を確認する方法がある
  • 復元テストを実施し、日時と結果を記録した
  • パスワード・暗号化キー・アクセス権の担当を決めた
  • 卒業・異動・研究終了時の引き継ぎ方法を確認した

まとめ

3-2-1は、研究データを原本1か所に置かないための出発点です。PC・外付け媒体・大学が認めた別場所などの構成を作り、HDD・SSD・NAS・クラウドの特徴と規程を確認します。Gitは変更履歴、バックアップはデータ保護という役割分担にし、最後は復元テストまで行って初めて「戻せる状態」を確認できます。

参考資料

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